日本のサーフィンの未来のために。コーチングの現実と未来。そして、プロとしての自負

 

日本のサーフィンの未来のために。「コーチングの現実と未来。そして、プロとしての自負。」ジョディー・スミス、トラビス・ロギーや多くの南アフリカWCT選手をコーチングするクレイトン・ニーナバーがオーストラリアで独自に行っているサーフィンセオリーが日本に上陸。そこには日本のサーフィンを世界のスタンダードに引き上げる秘策が隠されているのか。

 

 

Text & Photo : 山本貞彦

 

日本でもここ数年、プロやトップアマを見ると試合に向けてのトレーニング、食生活の見直しなど、それぞれが工夫して行っているのが見られるようになった。特にコーチングに関しては、ジュニアから下の世代に向けてメーカーが行う機会が増え、数年前に比べると成長のスピードが上がったようにも思える。しかし、世界と比べるとまだまだであり、日本が世界へ出て行くためには、他の国より二倍、三倍もやらないと追いつけないのが現状だ。

 

代官山のサイバードスタジオでセミナーを開催

 

そんな中、茅ヶ崎、東京代官山にて特別な講義が行なわれた。これは、これまでジョディー・スミス、トラビス・ロギーや多くの南アフリカWCT選手をコーチングするクレイトン・ニーナバーがオーストラリアで独自に行っているサーフィンセオリー。

 

湘南茅ヶ崎のHosoii Surf&Sportsでの講義の模様

 

 

今回はその日本人向けに同時通訳を行う越地建氏が来日したタイミングでの緊急開催となった。十三歳で単身、オーストラリアに留学した越地氏もアスリート。元スキーのモーグル競技の選手でもあり、陸上では十種競技の選手でもあった。その後、フィジカルトレーナーとしての道を歩む。

 


フィジカルトレーナーとしての道を歩む越地建氏


 

もちろん、通訳だけでなく、調理師免許も持つ越地氏が選手の食事管理も行い、自身もマネージャー、コーチング経験もあることで、日本の大会でも指導もする。このタイミングだったのは、生見で行われたJPSA×WSL JAPANの大会に併せて、加藤嵐、小川直久、小川幸男、高橋みなとらのコーチングがあったためだ。

 

 

JAWSのお陰でサーフィンが大きく成長したという高橋みなと

 

 

日本のサーフィンを世界のスタンダードに引き上げ、日本人選手をメジャーに送り込みたい

 

 

その越地氏が長年想っていることが、日本人選手をメジャーに送り込みたいということ。そのために自身でJAWS(Japan Associate with World Standard)プロジェクトを今年、立ち上げた。これは日本のサーフィンを世界のスタンダードに引き上げるべく、自身が所属するチームと日本の橋渡しをするというもの。

 

 

コーチングを受ける加藤嵐と小川幸男

 


そこでは、一流のコーチ陣を揃え、選手自身に直接指導。そのコーチ陣にはクレイトン・ニーナバーを始め、コロヘ・アンディーノ、ジュリアン・ウィルソンをコーチしているダン・ロス、そして、ガブリエル・メディナや数々のブラジルWCTサーファーのフィジカルとコンディションを担当するロドリゴ・ペレズ。そのロドリゴは水泳の日本代表や中国代表を指導するコーチでもある。そのコーチ陣の指示の元、サーフィンレッスンからフィジカルトレーニングを個別に行う。一からのスタートだが、それに見合うだけの結果が得られるというものとなっている。

 

さて、その中の講義の一つ。今回の内容はクレイトン・ニーナバーが、ケリー・スレーターやテイラー・ノックス、ミック・ファニングなどWCTサーファーとのやり取りでまとめたもので、実体験から生み出されたもの。

 

結論は「サーフィンは簡単である」ということ。

 

それは至ってシンプル。サーフィンだけでなく、いろいろなスポーツや普段の生活、出来事から解説する。その結論は「サーフィンは簡単である」ということ。波の性質を知り、身体の特性を良く理解すれば、誰でもサーフィンは上手くなれるという事ものだ。今までの常識が覆ることは間違いなく、今まで難しく考えていたことは、何だったんだと思うはずだ。

 

フィジカルに加え、メンタル部分でも大きな支えとなるコーチング。小川直久

 

 

日本にも根付き始めたコーチング。でも、ここでさらに踏み込んでおきたいのは、敢えて言えば、コーチは万能ではないということ。一人で全てを教えていけるのは稀だ。心技体。メンタル、テクニック、フィジカル。それぞれの得意分野に長けているコーチが必要だということ。

 

クレイトンのサーフ理論は素晴らしい。でも、これだけでは勝てない。クレイトン自身も、その先のテクニックは他のコーチを探せとも言う。そう、これが海外でのコーチングの常識。ジョエル・パーキンソンもルーク・イーガンからアイアンマンのウエス・バーグに替えたのは周知の事実。選手は一つの課題がクリアできれば、次のステップへ。そしてさらに上を目指す。だから、コーチを段階で替えることが必須なのだとも言う。

 

選手の資本である身体は、食べ物から作られる。

 

それと越地氏との余談で、もう一つ大切なのが食事だと教わった。選手の資本である身体は、食べ物から作られる。新陳代謝にて作り変わる身体は筋肉なら2ヶ月、骨なら3ヶ月と言われる。この食生活自体を見直す事も大事なことだ。コンビニ、インスタント食品はケミカルまみれ。これで勝負する身体が作られると思っていたら、大間違いだと。本当に強い身体を手に入れるのには、厳しいトレーニングとこの食事管理。そして、それを続ける覚悟も必要であると語る。

 

JPSAの開幕戦が行われたバリ島では、その成果を発揮した加藤嵐

 

 

日本では先輩から後輩への教え。雑誌からの受け売り。独自の思い込みなどなど。これらがサーフィンを難しくしていたように思う。まずはこの思い込みから捨てるべきではないかと、越地氏と話して実感した。

 

この講義は初心者だったら聞いて損はない。そして、キッズ、ジュニアならぜひ親も参加するべきだろう。親子でこの理論が理解できれば、スキルアップは間違いない。ただし、講義を受けて、その後、コーチングを実際に受けることが出来るのならば、それを勧める。頭で理解しても、それができるかどうかというのは別の問題。実際に海で指導を受けた方が、より身になるはずだ。

 

 

もちろんプロ選手にも勧めたい。もっと上手くなりたい、勝ちたいと思うなら、この講義でサーフィンの理解がより増すことだろう。しかし、プロ選手だからこその問題もある。それは、自分のサーフィンがある程度出来上がってしまっているからだ。

 

この講義を受けてサーフィンすれば、絶対に調子が悪くなる。それは、身体が覚えているものを壊さなければいけないから。それでも上手くなりたのならば、今、一度、サーフィンをゼロにするぐらいの気持ちがあるかを自分に問いてほしい。プライドがあれば、それは難しいことかもしれない。でも、将来を考えてどこまで自分を追い込めるのか。これは試金石となる。これこそがプロとしての自覚を問われるものになるはずだ。

 

世界に標準に合わせてツアーを転戦している大村奈央もアスリートとしてトレーニングを積む

 

 

プロとしての自覚。それはプロ活動とは何かを理解して初めてできる。

 

プロとしての自覚。それはプロ活動とは何かを理解して初めてできる。では、金銭が発生するスポンサーとのプロ契約とは何だろう。スポンサーはなぜ選手にお金を払うのか。それはその選手が活躍、優勝してくれることで宣伝となるからだ。これはギブアンドテイク。売上に貢献してくれると考えて契約している。しかし、契約は期間があり、そこで成果が出せなければ即終了となり、クビとなる。これがプロの世界。

 

では、そのもらったサラリーを何に使うのか。生活費?遊興費?プロだからもらったお金は何に使っても良いと思っていないだろうか。大きなお世話かもしれないが、これは本来、自分のスキルアップに使うものだと自分は思う。

 

前にも寄稿したが、賞金で食べるのがプロ。だから、もし好きなものを買いたい、そのお金で遊びたいというのなら、賞金を稼いでそこから使えばいい。賞金は自分の力で勝ち取ったものだから、自由に使っても何の問題もない。

 

自信に満ち溢れたパフォーマンスが戻って来た加藤嵐

 

 

上を目指したいのなら、身銭を切って自己投資するのがプロだと思う。

 

でも、プロ活動を続けたいならば、スポンサーからのサラリーはスキルアップに使うべきだ。よく考えて欲しい。身銭を切って学ぼうとしたら、元は取ろうと考えるだろう。そう、それだけ、真剣にもなれるということだ。上を目指したいのなら、身銭を切って自己投資するのがプロだと思う。プロとしての自覚を持つというのはこういうことではないのだろうか?

 

日本でプロ活動の意識が希薄な原因は何だろう。それは、日本のサーフィンが他のスポーツよりもプロ活動が曖昧だからだと思う。夏には一般大手の会社がサーフィンをイメージとして使い、ファッションとして扱う。それはサーフィンがライフスタイルであり、カルチャーだからだ。そう、コンペはあくまでもサーフィンの一部。サーフィンをイメージするならば、実力不足の日本のコンペの世界より重宝されるのは当たり前のこと。

 

それに選手自身の意識もある。勝ち負けを決めることは、結果が伴う厳しい世界。そこを望まなければ、当然、意識はカルチャーに向かうわけで、スタイルを取り扱う雑誌やイベントを好むようになる。

 

これもサーフィンとの一つの関わり方ではあるが、ここでの話はプロスポーツとして、アスリートとしての話だ。これはコンペ無しでは語れない。スノーボードでの平野歩夢や角野友基、テニスの錦織圭が世界で活躍することでニュースとなり、一般の人の興味を得ることで、そのスポーツが認知される。そこを目指すキッズが増えることで、マーケットが拡大する。お金が集まることで、さらにプロ活動も盛んになり、結果、プロ自身もそれで食べていける。


そう、コンペの一面にはこういう効果があるのだ。親父の世代で「サーフィンしていればモテル」とか、そういう時代もあったけれど、ファッション、カルチャーだけで流行らせる時代はとうに終わっている。市場をより活性化させたいならば、世界で活躍できる選手を輩出することが、今できる一番の近道だ。

 

 

市場をより活性化させたいならば、世界で活躍できる選手を輩出すること

 

 

 

海外ではフリーサーファーというくくりもあるが、わかって欲しいのは、彼らもコンペの道は通っているということ。そこを経て自分はコンペではなく、この道だと悟って進んでいることを覚えていて欲しい。何のベースもなく、誰もがいきなりフリーサーファー、ソウルサーファーになれるわけでないんだからね。

 

それと、日本ではサーフィンがプロ資格になっているのも原因の一つかもしれない。その資格を持っていれば、スポンサーがついていようがいまいが、プロサーファーと呼ばれる。自覚無くして、その位置に甘んじてはいないだろうか。

 

昔に「でもしか教師」という言葉があったように「でもしかサーファー」なのか。他にやりたいことがないから、プロサーファーでもやろうか。勉強していないから、プロサーファーにしかなれない。好きなサーフィンができればイイやというだけで、プロを目指していないか?

 

プロとは何か。プロ活動って何だ。

 

プロになることは大変なことだけれども、本来、その資格を取った後が一番大事なはずだ。プロとは何か。プロ活動って何だ。ここで、もう一度考えてみる必要があるだろう。そういう意味で、この講義はサーフィンを学び直すだけでなく、何のためにプロサーファーになったのかを改めて見直すきっかけにもなるはずだ。

 

日本が世界へ出て行くためには、多岐にわたる専門コーチの育成とその地位確立が急務だろう。そして、その世界を獲るという覚悟を持ってトレーニングする選手が出て、初めて世界に照準を合わせることができるのではないだろうか。でも、一番必要なのは選手自身の更なる意識改革。プロサーファー自身が「プロとしての自負」を持たな い限り、日本の世界進出は始まらない。

 

 

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