24年間、波を待ち続けた伝説の大会「イナムラサーフィンクラシック」で大橋海人が優勝。

24年間、波を待ち続けた伝説の大会「イナムラサーフィンクラシック」を制したのは大橋海人。


 

亡き父に捧げたイナムラ・トロフィー

 

9月30日までのウェイティング期間ぎりぎりの9月26日木曜日。24年間、波を待ち続けた伝説のビッグウェイブ・コンテスト「イナムラサーフィンクラシック2013」が開催された。今回、日本列島に沿って北上する台風20号の接近で太平洋側に大きなスウェルがヒットがもたらされた。会場となった神奈川・鎌倉の稲村ケ崎は、台風20号からの南よりのうねりで頭からオーバーヘッドのサイズ。北北東の強いオフショアが吹く、クリーンなコンディションのなかコンテストが午前8時にスタートとなった。会場前の公園やビーチ、R134号沿いの歩道は、この伝説の大会を一目見ようと集まったギャラリーで早朝から埋め尽くされた。

 

美しい波が多くのギャラリーを魅了した。撮影:佐原健司

 

太平洋側では広い範囲でクローズアウト。湘南エリアでもハードなコンディションが目立つなか、稲村ケ崎にはライダブルな波がブレイクしていた。波のサイズ的には、クラシックな本来のイナムラの姿ではないものの、潮の時間帯では素晴しいバレルを伴った美しいリーフブレイクが現れた。

 

今回の大会で最も驚かされたことは、報道陣とギャラリーの多さ。発表されているところでは、その数は3000人といわれ、通常のサーフィン大会では考えられない記録的な数の人がイナムラに集まった。それだけネームバリューのある特別な大会であり、エディ・アイカウの大会ように多くの人が待ち焦がれていた大会だったのだ。

 

国道の歩道を埋め尽くしたギャラリー。撮影:佐原健司

 

一般の人が見てもストレートに感動出来る大波に挑戦するサーファーの姿。そして、普段プロコンテストには姿を見せないイナムラローカルたちの勇姿。稲村ケ崎という鎌倉の中でも特別なロケーションでの開催が注目を集めた。

また、この大会では、2世代で出場という感動的なストーリーもあり、初代チャンピオンの善家誠氏の息子で、現在プロサーファーとして活躍している善家尚史、稲村の日本を代表するレジェンドサーファーである抱井保徳氏の息子である抱井暖、抱井理樹なども出場。20年以上受け継がれて来たそのスピリットが感じられた。また関野ブラザースをはじめとする、生粋の稲村ローカルたちもローカルナレッジを発揮し、ハードなチャージを繰り返し、ギャラリーから大きな歓声が沸き上がっていた。

 

ドラマチックなサーフィンアリーナと化した稲村ケ崎は選手への大きな拍手と喝采に包まれた

 

 

この大会を運営する長沼一仁実行委員長をはじめとする「イナムラサー フィンクラシック実行委員会」は、今回の台風20号によってもたらされるグランドスウェルによって、9月25日(水)開催に向けて準備に入っていた。しかし検討会で26日に更にサイズアップが見込まれるとし、ウェイティングを延長。そして25日(水)「イナムラサー フィンクラシック2013」のオフィシャルサイトで26日(木)に開催する事を発表。 24年ぶりに大会開催が決まったのだった。

 

 

ビッグなライトを掴み見事なパフォーマンスを見せた関野聡。

 

このイベントの出場選手はJPSA(日本プロサーフィ ン連盟)2012年度レイティングトップ20と、ASP(世界プロサーフィン連盟)ランキング日本Men’sスターランキング上位者、本大会の歴代優勝者 3名、ローカルビッグウェイバーを含む36名の招待選手。歴代チャンピオンである、善家誠、糟谷修自、坂本清克の3名のうち、今回出場に至ったのは坂本清克のみ。坂本は24年振りのイナムラクラシックでのサーフィンを楽しんだ。

 

 

バックハンドでバレルをメイクし、セミファイナルまで勝ち進んだ抱井暖 写真:佐原健司

 

 

大会は、セミファイナルのヒート1に大橋海人、松岡慧斗、ダレン・ターナー、田嶋鉄兵、ヒート2に大澤伸幸、田中英義、椎葉順というJPSAのトップが顔を揃えるなか生粋のローカルであるアマチュアの抱井暖が一人勝ち進み、地元の声援に応えた。セミファイナルがスタートすることには、雲も晴れ台風が接近していることも感じられない青空となった。セミファイナル1ではビッグセットで巨大なフローターを決めギャラリーを沸かせた大橋海人と、バックハンドのクリティカルなリエントリーを決めた田嶋鉄兵がラウンドアップ。ヒート2ではライトブレイクでフォアハンドのカーヴィングのコンビネーションを見せた田中英義と、バックハンドでレフトの波へ素晴しいコンビネーションを披露した椎葉順がファイナルへ駒を進めた。

 

決勝を前にファイナリストを取り囲んだ多くのギャラリー 写真:佐原健司

 

ファイナル頃になるとセットの数も増えてきたものの、かなりワイドなブレイクが目立ち、サイドオフも強まり台風の通過が感じられた。ファイナルはスローな展開。じっくりとセットの波を待つ4名のファイナリスト。そして右奧のライトでオープニングライドを掴んだのは田中英義。フォアハンドのリエントリーとカーヴィングのコンビネーションで素晴しいスタートを見せる。続けて次のセットを掴んだ田嶋鉄兵もファーストマニューバーでハードなリエントリーを見せる。椎葉順もレフトのセットを掴み、バックハンドチャージを見せる。

 

田嶋はセカンドウェイブでもレフトの激しいバックハンドのリエントリーをメイク。2本のスコアを揃えて行く。ヒート中盤、椎葉順と田嶋鉄兵が同じ波にテイクオフ。椎葉順が痛恨のインタフェアを侵す。じっくりレフトのセットを待った大橋海人は、ビッグフローターとカーヴィングのコンビネーションでインサイドまで乗り繋ぐ。そして、台風特有のセット間隔の長いファイナルで辛抱強く波を待ち続け、後半からリズムを掴んだ大橋海人が、的確にオープンフェスな波を掴み、ハードなリエントリーと得意のカーヴィングを連発して見事勝利を掴み、優勝賞金50万円を獲得した。

 

優勝した大橋海人は、「特別な大会で優勝出来て本当にうれしいです。24年前の当時の招待選手だった父は、2年前に亡くなりましたが、その大会に自分が優勝出来たことを父は喜んでくれていると思います。」と今は亡き父親の大橋勧さんに優勝を捧げ、サーフィン史に刻まれる素晴しいコンテストのエンディングを締めくくった。

 

「東日本大震災以降、「波」という言葉自体が主要メディアから遠ざけられていました。しかし、今回の稲村クラシックの模様は日本テレビ、朝日新聞、FM横浜、YAHOOなど各媒体で、取上げられ大反響となりました。震災で海から離れていたサーファー、そして「サーフィンを始めたい」と思う人たちが、ひとりでも多く現れることを切願する次第です。」と広報担当のひとりである矢口さんがコメントした。

このような種類のイベントは、波のコンディションだけでなく、それに携わる多くの要因がマッチしなくては開催出来ない。運営側の苦労は計り知れないが、これだけ盛り上がる大会は今後も継続的に行われていくことを切に願うばかりだ。

 

 

 

喜びを全身で表した大橋 写真:佐原健司
ビッグフローターでギャラリーを魅了した大橋海人 写真:佐原健司
シャープなフォアハンドターンを何度も繰り出した大橋海人。写真:佐原健司
惜しくも2位となった田嶋鉄兵。ビッグウェイブでのポテンシャルの高さをアピールした
バックハンドで素晴しいバレルを何度もメイクした椎葉順。写真:佐原健司
ファイナルはバックアップを見つけられず4位となった田中英義。写真:佐原健司
カーヴィングとバレルをメイクしてギャラリーを沸かせた辻裕次郎。写真:佐原健司
バックハンドチャージを繰り返した加藤嵐。写真:佐原健司
鎌倉のレジェンド、植田義則氏の板でフルレールのボトムターンを決める仲村拓久未 写真:佐原健司
分厚いスプレーを上げ続けたダレン・ターナー。写真:佐原健司
セミファイナルで惜しくも破れた大澤伸幸。写真:佐原健司
同じくセミファイナルで破れた松岡慧斗。写真:佐原健司
ファイナリスト
多くのギャラリーが最後まで会場に残りファイナリストに大きな拍手を送った

大会結果:優勝:大橋海人、2位:田嶋鉄兵、3位:椎葉順、4位:田中英義

 

 

オフィシャルサイト:http://www.inamuraclassic.com/

 

「イナムラサーフィンクラシックインビテーショナル」は1981年に開催された「ナガヌマクラシック」が前身で、2回の開 催を経て 1989年「イナムラクラシック」と大会名を変更して第一回が開催された。日本のサーフシーンにおけるビッグウェーブ・コンテストの先駆けである。その後 23年間、大会に相応しいクラシックな大波が立たず開催されていなかった。