「日本のプロサーフィン、その現実。」2012年度JPSA/ASP賞金ランキング

「日本のサーフィン」シリーズ番外編「日本のプロサーフィン、その現実。」

Text   : Sadahiko Yamamoto、Photo  : Sadahiko Yamamoto

 

プロっていくら稼げるんだろう?スポンサーの契約金もあるけど、プロなら試合の賞金だ。日本にはプロランキングがあるけど、それはポイントだけでの順位。なので、プロゴルフに倣って「賞金ランキング」なるものを勝手に作ってみました。これはプロを評価する一つの目安になるはず。

 

日本にはプロ組織が2つある。国内中心の日本プロサーフィン連盟 ( JPSA )。そして、世界組織の日本支社としてASP JAPAN。この二つが国内の大会を運営管理している。今年度、JPSAはショートボードで男女とも6戦、ASP JAPANは男子のWQSを5戦開催した。

 

各協会は大会結果によりポイントを加算、総合ランキングを出している。 JPSAでは国内プロ組織として年度ごとにグランドチャンピオンを確定し、男女とも表彰を行う。ASP JAPANでは各カテゴリーの順位は出すものの特に表彰はしていない。その理由は、あくまでも順位はワールドランキングが主体となり、現在の成績で日本だけのランキングを出して表彰しても意味がないとの判断からだ。

 

ちなみに、ハワイで開催されていた「VANS WORLD CUP OF SURFING」で今シーズンのWQSはすべて終了し、ASP ワールドランキングが更新された。日本人最高位は大野修聖で123位。その後に辻裕次郎 163位、田嶋鉄兵 164位、林健太 173位、加藤嵐 184位、大澤伸幸 188位と続く。女子は大村奈央が34位で最高位。続いて庵原美穂 66位、武知実波 75位、北澤麗奈 105位という結果。

 

日本人最高位は大野修聖で123位

 

さて、日本ではプロの評価は何を持って判断されるのか?プロのランキングを見るとなると、どうしてもJPSAのデータが中心となることが多い。しかし、それで選手の評価が正当になされていると言えるのだろうか?

 

海外を転戦している選手はJPSAランキングには入らない。日本のトップであるJPSAのグラチャン経験者の大野修聖や田嶋鉄兵、大澤伸幸などは参戦していないから、当然その順位に名前はない。実際、両方の団体の試合に出場する選手はいるが、活動は選手により国内中心、海外中心と別れているのが現状だ。

 

日本には統一ランキングはない。そこでだ。プロゴルフのように勝手に「賞金ランキング」なるものを出してみた。とりあえずショートボードで算出した。(注:ロングに重複して参加している選手で、賞金獲得している分は含まれていない。)

 

 

※詳しい2012年度JPSA/ASP男子の総合賞金ランキングはこちらからご覧下さい。

 

これはJPSA、ASPの大会での獲得賞金を計算し、ランキングにしたもの。国内で開催されるメーカーや地域で行うプロアマの試合は計算に入れていない。あくまでもプロ組織の二団体での獲得賞金だ。ASPに関しては国内だけでなく、海外の試合で賞金を獲得したものも入る。

 

「けっこうもらっているね。」「これだけしか稼いでいないのか。」と、それぞれ感想があると思うが、これが日本の「プロ」の現実だ。もちろんプロ活動がすべてコンペティションだと言い切るつもりはない。スポンサーからの給料があるわけだし、賞金だけで生活をしているわけではないからね。

 

でも、プロスポーツならば、勝って賞金を稼ぐというのが当たり前だと思う。プロならば現場で稼ぐこと。これが元来のプロの原点ではないか。あくまでもスポンサーはスポンサー。スポンサーは試合に勝つ為のフォローであると思う。

 

2012年度のASP&JPSA総合賞金ランキングのトップは大橋海人

 

この賞金ランキングのトップは大橋海人。3位の加藤嵐、5位の仲村拓久未とジュニアの選手が健闘している。これは両団体の大会に参戦したことに加え、ジュニアということもあり、出場する試合数も多い事がランキングを押し上げたと言える。

 

また、JPSAの優勝金額は72万円。これも大橋が大きくランキングを上げている一つの要因だろう。しかし、ここで見て欲しいのはそれ以下の選手。ASP中心の選手が意外や検討しているのがわかるだろう。しかもこれは海外で戦っての結果だ。世界で戦っている価値を考えれば、US1$=¥100で計算してもいいだろうが、現時点ではレートの¥80で計算している。金額は大きく上位陣に離されてはいるものの、十分評価できるのではないだろうか。

ASP賞金ランキング1位の加藤嵐

 

続いて女子について。日本の女子はJPSA中心となっている。ASP JAPANでは国内での試合がない。あるのはジュニアガールズだけ。こちらは海外のASPに参戦している選手が少なく、国内を含め賞金を獲得しているのは6人。実際、世界へ出るにもポイントがないため、エントリーしたくても足切りがあり、参戦できる試合も少ないのが現状だ。その為、あまりランキングに変動はないが、海外中心の大村奈央がやはり順位を上げている。

大村奈央

 

ここで各協会の賞金ランキングを見てみよう。ASP JAPANはASP INTERNATIONALのワールドランキングを参考にしている。これは一度でも国内、海外のWQSに登録している選手のランキング。そこに今年稼いだ金額の合計がランキングと共に掲載されている。それと、WQSに参戦せず、国内だけでマネーラウンドに進出した選手もこのランキングに入れてある。なので、並んでいる選手はベテランからジュニア、カデット、グロムとバラエティーに富んでいる。

 

さて、JPSAはどうか。こちらはプロ公認を取らないと参戦できないクローズ形式。今年度、参戦している選手は114人。それに加え、プロトライアルに参戦しているアマチュア選手もその傘下にいる中で、賞金を獲得しているのは36人のみ(女子は48人中、22人)。トップの一部が総取りしているのがお分かりいただけるだろう。

 

 

※詳しい2012年度JPSA ASP女子の総合賞金ランキングはこちらからご覧下さい。

 

プロとは何だろう?資格なのか?

 

では、再び賞金獲得ランキングを良く見てほしい。こちらはプロもアマも入っている。アマチュアはあくまでも賞金獲得という意味だが、実際戦って得た報酬だ。そもそもプロの資格とは何なんだろう?稼いだらプロじゃないのか?この資格に振り回されているから、日本の選手が独り立ちできないのではないのか?

 

自分は資格を否定はしない。日本は名刺、肩書き社会。だから資格が好まれる。それは他人に自分の身分を証明するのに役立つからだ。また競技においてある程度のレベルを確保しないと試合自体が成り立たないこともあるので、質を上げる意味で振り分けは必要だろう。しかし、資格を取れば終了ではなく、実際にはその後のプロとしての活動が大事なはずだ。

 

JPSAグラチャンの林健太は賞金ランキングでは2位

 

問題は業界がこのプロ資格を評価の指針としていることだ。一般的にメーカーは選手に対し、アマチュアとプロの違いで金銭の有無を決定している。一つの判断基準としてこのJPSAの「プロ」公認を一つの条件としてきた。「プロ」という肩書きがなければ、金銭は発生しないとしているメーカーは多い。

 

そして、もう一つは媒体の責任。国内の媒体は経費削減を強いられる中、選手を海外まで追っかけるだけの費用がない。もしくは興味もないのか。よって国内中心の選手の露出が多くなる。ならば、メーカー側も選手に対し、海外に行くよりも国内で活動をしてくれと望む構図が出来上がる。こうして、国内中心、JPSAランキング主義が出来上がる。

 

逆にうがった見方をすれば、メーカー、媒体も口では世界と言いながら、実は選手に金を出さない理由を作っているとしか思えない。そして、最も良く言われることとして、「まずは国内の実績を作ること。日本で勝てない者が世界で勝てるわけがない」と。確かに一理ある。しかし、そんな資格とかで日本に縛るのでは無く、プロだろうが、アマだろうが本人の資質でサポートするか、しないか、金を出すか出さないか、決めれば良いと思う。

 

金銭が発生すれば、もちろん成果主義となる。だから結果が出なければ首は切られる。その覚悟で選手が活動するならば、それはそれで判断すればいいことだ。プロって、元来そういうものじゃないのか?リスクを背負って挑戦する選手がいるならば、その志を見て判断すればいいんじゃないのか?

 

 

プロ自身にも問いたいこと。

 

これからプロ活動をする選手も含め考えて欲しい。業界が国内偏重だからと、公認選手しか出場できない閉鎖された環境の中で戦う。これは海外で戦うより楽かもしれない。しかし、数字を良く見て欲しい。たったの36人しか賞金を獲得していない。登録費、大会へのエントリー費を支払い、稼げているのは一部のみというプロの厳しい現実だ。

 

JPSAのホームページも見て欲しい。試合に出ない公認プロが何人もいる。更新してプロ資格を継続する人達だ。だから、これは資格なのだということをまず自覚して欲しい。この資格を取った後が大事なんだ。ワールドワイドなプロスポーツにおいて、この資格は自分たちの生活を守るものではない。あくまでも資格なのだ。そこをもう一度考えよう。

 

世界へ挑戦することの難しさ。いろんな理由がある。スポンサーがない、だから海外へ行くお金もない。さらに両団体に登録するお金もない。技量(スキル)もまだ足りない。だから、日本で良いと。しかし、そこに甘えがないか?厳しいとわかって飛び込んだプロの世界なのに、自らを閉ざしていないか?プロとなったらならばだ。その枠だけに収まっていていいのだろうか?もっと高く目標を掲げてもいいのではないか?

 

国内組の選手を非難しているのではない。各々には目標があり、その人のやり方に他人がとやかく言う権利はないことはわかっている。それにもちろん、コンペだけがプロではない。他のプロ活動があって当然。それも有りだと。ただ、勘違いして欲しくないのはフリーサーファー、ソウルサーファーも最初からなれるものではなく、コンペを通してつかみ取った経験の中の一つの選択肢なのだ。そう、コンペが在りき。

 

 

日本に光は射すのか?

 

ここで言いたいのは基本、プロスポーツ=コンペだ。それがあって将来の活動に繋がって行くと思う。だからこそ、業界全体が世界へ挑戦している選手をもっと取り上げなければいけない。身銭を切り、身体を酷使し、一人で世界と戦っている選手が国内だけでやっている選手と同じ扱い、もしくは低く見られるのはおかしい。海外でやることがどれだけ大変か。世界へ挑戦している、もしくは挑戦しようとしている選手をもっと評価しないといけない。

 

自分はこのJPSAのプロ公認資格を否定しているわけではない。ただ、プロとしてやるならば、賞金で稼ぐのが基本だろう。だから、まずは選手への評価基準を変えること。この勝手に「賞金ランキング」が一つのきっかけになり、業界は資格で判断すること無く、プロアマ関係無しに、選手自身に対しての評価をするようにして欲しいと思う。

 

だからこそ選手にもわかって欲しいのは、これが認められればプロの名の下に戦うことがより厳しくなる。自由な活動で選手が優位になるからこそ、厳しい判断基準が出来上がるということ。そう、「力の無い者は去れ」の世界だ。しかし、これで日本のサーフィンが本当のプロスポーツとなることができる。

 

日本は今までの在り方を頑に守ろうとしているのか。自分たちのやり方だからと変えようとしなかった。メーカーも媒体もそして、選手自身もこの甘えの構造に浸り過ぎていたんだと思う。今の日本という国が抱えている問題、構造とまったく同じだ。変えないとダメだ。

 

プロは自己責任の世界。そして、プロの世界は長い間活躍できる場所ではない。選手生命は短いからこそ、我々は選手個人について評価をすべきだ。この資格主義という国内基準と世界とのダブルスタンダードは止めて、世界を標準とした一規格で選手をバックアップすること。そして、プロサーファー自身の意識改革を進めると共にメーカー、媒体など業界全体が一丸となってリスタートしなければ、日本選手の世界への道は無いと思う。

 

 

 

イチロー語録から。

「先輩達が守ってきたものを守っていかなくてはいけないこともある。でも、僕たち今の時代に生きている選手達が、先輩達が作ってしまったおかしな価値観や概念を壊していく。その行為もそれ以上に大事なことだと感じている。」