「日本のサーフィン、その未来。」

今年もジュニアの世界一を決める大会、ASP 「Billabong World Junior Championship」がオーストラリアのゴールドコーストで開催された。これは2011年度のジュニアチャンピオンを決める大会。ワールドジュニアは年3戦行われ、昨年のバリ、ブラジルに続き、これが最終戦となる。 

今回は昨年までのノースナラビーンからバーレーヘッズに会場を移動。観光客も多いこの地域で、ジュニアが最高のパフォーマンスを見せてくれた。天候は曇りベースで突然の雨も多く、晴れたのは初日だけ。やる方も見る方も苦労する大会となったが、その分、波は2〜3フィートをキープ。スキルを問われる波だったものの、パフォーマンスを出すに十分なコンディションだった。大会の詳細及び結果は、SURFMEDIAの本編を見てもらうとして、ここは日本人選手中心に話を進めよう。

Text &Photo : : Sadahiko Yamamoto


今、できる限りのサポートを。
 


日本からは大橋海人、加藤嵐、新井洋人、田中海周、大村奈央の昨年の参加メンバーに渡辺寛、橋本恋が初選出となった。代表には常連組も多く、さらにこのシリーズも全3戦となったことから経験値も上がったのだろう。時折、笑顔も見せ、リラックスして練習をこなしていた。

そして、今回は昨年のニック・コグランの臨時コーチに変わり、ジュニアプロジェクトに参加してもらっている田中樹プロと間屋口香プロがコーチとして帯同。日本チームとして今、できる最大限のことをやるために、集まってくれた。

結果は、まず仲村拓久未から。代表から漏れるものの、今回はトライアルからの参戦権を獲得。しかし、実力を出し切れず、セミファイナルで敗退。

そして本戦、まずは男子。R-1は全員が1位抜けできず、R-2に回る。ここを勝ち抜いたのは、大橋海人、加藤嵐、新井洋人の3人。田中海周、渡辺寛はここで姿を消す。続いてR-3。ここは大橋海人、加藤嵐が踏ん張り、ラウンドアップ。新井洋人は、ディーン・ボウエンに体格負けで、ノックアウト。自分の壁を超える事は出来なかった。そして、日本人選手が2人もここまで勝ち上がったことがないR-4 。期待がかかるものの、加藤は僅差でジャック・フリーストンに敗退。大橋も自分のサーフィンができず、ここで全員が終了となった。

続いて女子のR-1。大村奈央、橋本恋が同ヒートでぶつかり、大村はR-3へジャンプアップ。3位の橋本恋はR-2に回るものの、経験不足でここで敗退。唯一、残った大村だったが、R-3では勝てる試合をミスで落とした。

今大会の順位は大橋、加藤が9位。新井が17位。田中、渡辺が33位。大村は9位、橋本が17位という結果。これで今期すべてのWJCの試合が終了し、総合順位は男子 加藤が13位、大橋22位、新井31位、田中41位、渡辺54位。女子は大村が奮闘。6位、橋本は18位という結果で2011年度は幕を閉じた。

この試合の全体を見て、一つ苦言を呈するならば、絶対勝つんだという気持ちが、他国の選手と比べると弱い気がする。それは、勝とうという意識の違い。日本人選手はあくまでも競技として考えているが、海外の選手は人生として捉えている。この試合で勝って、シードをもらい絶対世界へ行くんだという気持ちの強さか。これが試合の中の競り合いで出る。1ヒートの勝負に、人生を懸けている人間に、競技として捉えている人間が勝てるわけがない。ここが次への課題にもなるだろう。

この結果をどう見るか?
 

さて、ASP リージョナル7地域のWJC 男子トップ4人の獲得ポイントの合計。前回は日本だけが一桁違いの不名誉なダントツの最下位だったが、今年の順位は一つ上がって6位。オーストラリア、ブラジルのトップ2には離されているものの、それ以外の地域とは十分戦えるだけの数字になっていないだろうか?力不足はまだ否めないとしても、少しずつではあるが、結果が出始めていないだろうか?


この結果は、本人たちの日々の練習と努力の成果。そして、その他にASP JAPANがジュニア、カデット、グロムと年代別に細かく分け大会を開催、さらにマンオンマンヒートを組んで訓練したこと。各スポンサーがジュニア育成に力を入れ、トレーニングを行ってきたこと。また、選手個人でも積極的に海外に出て試合を転戦し、経験を積んできたこと。さらに、田中樹プロが去年から始めたサーフキャンプなどで行った意識面での改革など、多くのことが実を結んだ結果だと思う。

選手の発言が変わった。
試合後の各選手の言葉は下記のとおり。

Takumi Nakamura

仲村拓久未は言う。「このトライアルが決まってから、カリフォルニアでトレーニングをして来ました。点数の出せるサーフィンを覚えたつもりでしたけど、自分の力不足でした。これからはレールの動きとか注意して、技のバリエーションを増やしていきたいと思います。今は勝ちたいですけど、焦らずに照準を3年後に合わせて自分を高めていきたいと思います。」

Kaishu Tanaka

田中海周は「世界戦に出て、ビデオに出ている連中と戦って、面白いって。で、心底勝ちたいと思いました。結果は負けましたけど、自分の足りないところを見つけられました。自分のダメな点は、波のポジショニングや選択ができていない。基本的なことですけど。今まで良い波ばかりやりすぎていました。だから、これからは波の悪いときも練習して、見極める目を持ちたいです。」

Kan Watanabe

渡辺寛は言う「自分の実力がみんなより無いのはわかっています。正直、負けばかりで悔しいです。でも。負けたからこそ、考えることができました。もう一度この場で戦いたいです。自分に足りないものが、エアーとかバックサイドのサーフとか。必殺技みたいなものも練習して覚えたいです。でも、それ以上にちゃんと海外で通用するサーファーになりたいです。」

Hiroto Arai

新井洋人は「手応えは感じています。この試合の前にオーストラリアの大会で優勝出来て、トレーニングして来たので。この大会の結果は同じですけど、自信は持てました。来年はもっと良い成績残せるようにしたいと思います。身体はまだ出来上がっていないんですけど、レール入れてスプレー飛ばせるようになりましたし。当てるとことかを考えて、今はサーフィンしています。来年はジュニア中心ですけど、WQSにも挑戦していこうと考えています。」

Arashi Kato

加藤嵐は「正直、試合の時間の組み立てが下手でした。波待ちすぎて、スロースタート過ぎました。先攻在りきでしたね。これからは自分の思うように、試合運びができるようにしていきたいです。勝ちたいと思うと緊張するのは、仕方の無いことですけど、試合では自分のサーフィンを出すことだけを考えて、臨むようにしたいと思います。これは今回、初参戦した選手にも、特に言いたいことですけど。」

Kaito Ohashi

大橋海人は「1、2年前に比べれば、少しはマシになったかなって思います。前は自分のサーフィンなんて、できなかったし。だから、この自分らしさを出す技、エアーとかフィンアウトとかを強化して、メイク率も上げて、試合で出していければ。自分のサーフィンを出しさえすれば勝てるんだという自信はできました。もちろん、今年も代表に選ばれるように頑張りたいです。」

Nao Omura

大村奈央は言う「今年、プロジュニアの試合で成績を残せるようになって。点数も出せるようになりました。気持ちも、今は勝とうという意識が強くなりました。でも、自分はまだ技術が足りないことと、試合の戦略がないので。それをこれからは身につけたいと思います。」

Ren Hashimoto

橋本恋は「自分は全然、力不足。もっと練習しないと。でも、良い経験はできました。」と言っていたと、一緒に帯同していた間屋口香プロが教えてくれた。

2年前には、「作戦はありません。来た波に乗って、良い演技するだけです。」と言っていた選手たちの言葉が、今はこう変わった。「自分のサーフィンをする」という意味でも、自分を理解した上での発言になっている。自分の頭で考え、自分で決める。そして、そのすべての責任を受け入れる覚悟が、選手自身を強くしているのだろう。これは大きな進歩ではないか。

今、求められるコーチとは?

そして、今回、多くの選手が言っていたこと。それはコーチの存在。
「安心する。やりやすい。指示くれる。自分のできる範囲で言ってくれること。絶対必要。」など。迷った時にアドバイスをもらえるのは、どれだけ心強かったか、と口を揃えて言う。この精神的な支柱が、今のジュニアには絶対に必要なのだ。 

コーチについては色々な意見があるだろう。一般論で言えば、WT(ワールドツアー)経験者がベストだという意見だったり、会場となるローカルのコーチも必要だという意見もある。これはその通り。

でも、「それに加え、今のジュニアに必要なのは、彼らの技量を理解していること。さらに行動や癖、考え方をもわかっていることが重要だ。」と、田中樹は言う。

「相手に飲まれたりして、実力が100%出せていないから、負けるんです。だから、できる事を100%やれと言うんです。」

日本の実力は海外に比べ、まだ劣るのは事実。できないことを指示しても仕様がない。波、相手選手など瞬時に変わる状況で今、できることをアドバイスする、これが必要だと語る。

そして、田中樹は試合で各々に考えさせる事を全面に打ち出す。試合は一人で戦うものだからこそだ。

「でも、わからないなら聞いてこいと言っています。聞かれれば答えますし。でも、コーチがすべてではないです。自分で判断することが必要。自分の思いでやるのが一番ですから。」

選手は将来、ジュニアを卒業して一人で世界を戦って行く。
いつでも一緒にいられないからこそ、自主性を伸ばすことも忘れない。

「実力に対しては怒りません。試合は実力じゃない部分もあるわけだし。同じミスをしない。直せるものは直す。各々が気付くことが大事ですから。」
「下手だとは言わないです。チャンスはありますし。スキルを上げて、自信持ってサーフィンしようと、みんなには言っています。」

選手たちは今、一歩ずつ歩み始めた。自分たちのできることは、自分たちでする。そして、ジュニアをバックアップする準備もできた。日本の実力をアップさせるには長い道のりとしても、まずはここからがスタートだ。

次にやるべきこと何だ?
 


日本にはプロに係わる協会が2つある。1つは世界組織の支局としてのASP JAPAN。こちらは登録さえすれば、プロアマ関係なく、誰もが出場できる。

そして、もう1つが国内を統括するJPSA (日本プロサーフィン連盟 )。こちらは出場するためには、プロ資格が必要となる。これはJPSAが認可する公認プロという資格。プロトライアルを開催し、規定の基準を超えれば、プロ資格を与えるということになっている。

この公認システムは、他のスポーツで言うならばボクシングが近い。ゴルフはちょっと違って、WT、WQSのようにクォリファイツアーに参加して、いい成績を残してツアーに上がれればプロ宣言できる。テニスはツアーに参加しランキングさえあれば、自己申告でプロになれるとのこと。海外のサーフィンはこれに近いだろう。海外では自分がプロと言えば、プロなわけだ。

さて、日本で世界を目指すと宣言した選手が活動する場合、多くのケースで、このJPSAのプロ資格を求められることが多い。特に正式なものでないが、メーカーに求められるのが通例。プロスポーツ選手の定義が「職業として、なおかつ報酬を受け取っている人の事を指す」と言われるところから、金銭の発生については、これを指針にしているのだろう。プロとアマの違いだ。

資格を取る。ある面、確かに必要なことだけれども、これには日本的な考えなのかもしれない。自分はプロスポーツだからこそ、もっと自由であるべきだと思う。サーフィンで世界を舞台にしたいなら、なおさらだ。

誤解のないように書くが、ASPに登録し、プロ宣言をして、世界を廻ることができない訳ではない。そして、その行動を制約されるわけでもない。ただ、国内では非公認プロとなるだけ。でも、それで給与の差が出てしまう可能性はある。

確かに日本で活躍もできないのに、何が世界だという意見も理解できる。だから、日本でプロの資格を取り、結果を残してからということも間違いではないだろう。

しかし、NSA→JPSA→ASPという道しかないのは、おかしくないか?
最初から世界を目指す道があってもいいのではないか?
各々、個人で性格が違うように、10人いたら10通りのやり方があるわけだし。
今のままなら、JPSAでプロという資格を取らない限り、国内だけでなく、世界を廻ることすら難しくなってしまう。

考えてみて欲しい。JPSAのプロ資格を持たない選手が、もし、プロ宣言すれば、今までより以上、厳しい評価をされるわけで。国内活動のプロ以上に成績を上げていかないと活動存続は難しくなる。選手自身にも、それ相当の覚悟が必要となる。敢えて困難な道を選んだのだからね。でも、これがプロとして活動する本当の姿なんじゃないのか?

ここでプロ公認の是非を論議しているのではなく、他のやり方も認めたらということだ。選手全員が世界を目指すわけではないけれど、色々なやり方があって良いと思う。だから、他の選択肢を作ること、それを認めることが、選手個人の更なる飛躍につながると思うのだが。

プロって何だろう?

JPSAの現在のツアーはクローズド。プロ公認資格を持ったもののみ参加する権利がある。このシステムについては、別に否定はしない。ただ、限られたメンバーでやる事の意義はなんだろう? 

JPSAは、日本でプロ公認資格という基準をクリアした日本最高峰の選手たちの演技を見せたい。「さらなる日本人サーファーのレベル向上と、日本におけるサーフィンの普及を図る」と言う。

でも、グラチャンを取ると次は世界へ行ってしまう。これは明らかに通過点として選手自身も認識しているはずだ。強い選手が参加していない国内ツアーの意義はなんだろう?

そして、現在、この不景気も重なって、ここ数年、JPSAのトップランカーでさえ、スポンサー探しに苦労しているこの現状をどうみるか?もう国内だけでプロ活動をすることが、経済上、難しい時代がやって来ているかもしれない。

今までこの国内ツアーに出ていれば、知った顔で楽しいし、ある程度は食べていけるし、プライドも保てた。身銭切って、苦労して世界を廻らなくても、十分、プロ活動ができた。メーカーも媒体もそれを望んでいたし。

しかし、メーカーからお金がもらえ無い、海外で戦うだけのスキルも無い、頼みのJPSAも試合が開催できなくなったらどうするのか?
選手に問いたい。お金がもらえなくなって、プロ活動を続ける理由は何なのか?

プロ活動がすべてコンペだとは思わない。でも、コンペの成績でステータスが決まるのは事実。

ならば、どうだろう。基準を見直さないか? ダブルスタンダード(世界基準と国内基準)を止めること。国内オンリーの価値観を捨て、世界基準に統一する。

日本でのコンペの価値を根本的に上げるのだ。選手への評価はすべて世界基準で、ワールドランキングで評価。選手もメーカーも業界も媒体も、すべて同じ価値観を持つようにする。

でも、その分、プロ活動は厳しくなることは、間違いない。実力無きものは去れ、ということにもなるだろう。でも、プロってそういうものではないのか? それでも、生き残ったものには、今までよりも名声とお金が手に入る。これがプロスポーツの世界ではないのか?

次は選手育成と同時に、フィールド作り。
世界で活躍するためには、まずは試合に参戦し、ポイントを稼ぐことが必要。
しかし、現在、ASPでも世界的な不況により試合数が減っているのが現状。特に女子の大会が少なくなっているのが目立つ。今のASPのシステムだと、前年度のポイントによりシードされるが、ビッグスターの大会は当然、エントリーも多い。そうなると足切りされ、最初から参加できないことになる。ただでさえ、試合が少ない上に、試合にすら出られない状況が、起き始めているのだ。これでは世界挑戦すらままならない。 

ならばだ。日本人選手の活躍の場を、日本国内で作ればいい。

そのためには、今のJPSAとASP JAPANでの連携強化。お互いスポンサーが少ないままでは、大会開催もままならないのが現状。ならばJPSA主催でASP公認の大会があってもいいではないか? お金を合わせて大きなスターイベントをやることだ。(この試合は当然、クローズではなく、オープンとなる。)

特に女子とロングボードのカテゴリーは必須。ジュニアと同じく、選手は海外を転戦するチャンスが少ない。なぜなら、金銭面の援助が少なく、仕事を兼務しながら、プロ活動を続けているから。ならば、日本で世界大会を開催すれば、国内にいながら海外の選手と戦える。そうすれば、自分のスキルアップにつながるだろうし、自国の利で、ポイントを稼ぐこともできる。有利になるはずだ。これは男子も然り。

ジュニアを応援するシステムはスタートした。でも、それだけではダメだ。先の未来を考えれば、国内で選手の活躍する場を作り、世界へ出て行ける土台を構築することも同時に必要。これがジュニアを最終的に世界へ送り出すことになると、自分は考えている。

日本のサーフィンが大きく変われるか、それは業界全体にも係わること。大いに議論を重ねよう。そして、未来につなげるために、みんなで一歩、踏み出そうではないか。

「日本を代表するサーファーが世界の舞台で活躍する日を夢見る」と言うならば、日本のサーフィンに係わる協会の改革と業界の協力を願って止まない。